こんにちは!
パーソナルスタイリスト・服装心理カウンセラーの久野梨沙(@RisaHisano)です。
さて、先日行われたM-1グランプリ、ご覧になりましたか?
令和ロマンが史上初の2連覇という偉業を達成しましたね! 私も今年は自宅でリアルタイムで観戦(まさに「観戦」がふさわしい番組ですよね)できました。お笑いはそれほど詳しくはないのでただひたすらゲラゲラ笑いながら見ているんですが、職業柄どうしても気になるのが、みなさんの衣装・・・!
スタイリスト目線で衣装だけ見てみても、今回のグランプリは令和ロマンだったなー、とつくづく思うのです。
嬉しいのかよ pic.twitter.com/Gc6y9oHRie
— 令和ロマン 松井ケムリ (@smoke_matsui) December 22, 2024
もちろん単におしゃれとかそういう次元の話ではありません。セルフブランディングという観点からも、令和ロマンの2人のスーツは非常に良い選択だったな、と思ったんです。
どういうことか、詳しく解説していきます!
「ラスボス」令和ロマン・くるま氏の衣装戦略
予選の段階から
「ラスボス感」がすごい・・・・・・!
と言われていたくるまさんの衣装。
そもそも前年のM-1で優勝したコンビが翌年も出場し優勝を狙うなんて言うことは、前代未聞。異例のことです。「(M-1を)終わらせましょう・・・!」という発言もあり、今回はかなり意図的にヒール的立ち回りをしていたように見受けられます。
そんなイメージ戦略にぴったりなこの衣装、ポイントは「バストアップ」と呼ばれる胸から上の部分。テレビでどんなカットであっても基本的には映り、顔にも近いため印象の要となる部分がここです。
スーツスタイルの場合、この部分の印象を作るのは
- ジャケットの肩の形
- ジャケットの襟(=ラペル)の形や太さ
- シャツの襟の形・大きさ
- ネクタイの色柄・太さ
です。
ちなみにビジネスマンの場合も、この部分でほぼ印象が決まります。商談でも立ち話でも、クライアントとは基本的には近い位置で顔を見ながら話すわけですから、ほとんどバストアップの印象しか残りません。ですから、イメージコントロールを考える際、私もまずはこの部分をどう作っていくかに注力するわけです。
さて、くるまさんの今回の衣装はこのSAINT LAURENTのスーツでした。
「今季のタキシードジャケットだ」とかいろいろSNS上で商品名が挙げられてましたが、微妙にラペルの尖り方が違う(今季の当該商品はラペルが上向きに思い切り尖った「ピークドラペル」なのに対し、くるまさんが着ていたのはそこまで尖っていない「セミピークドラペル」)ので、恐らくSAINT LAURENTの今季品というのは間違いかな、と。
今はFARFETCHでしか売っていないこの商品だと思われます。
特徴は、肩のラインが通常のビジネススーツと比べてかなり水平で、肩先が垂直に立ち上がるような「いかり肩」の形状であること。肩パッドもしっかり入っており、ウエストラインが絞られていることでいかり肩のシルエットがより強調されている、SAINT LAURENTらしい攻めたシルエットになっています。
そこへ、ラペル(スーツの襟)もかなり広幅ですよね。いかり肩で広いラペルは、強い印象を強調します。「ラスボス感」はまさにここから来るものでしょう。
さらに小さなシャツ襟がそれを強調、太めのネクタイが黒の面積を増やすことでよりダークで強い印象へと導いているわけです。
ちなみに私がSAINT LAURENTをお見立てするお客様は
若くして業界に革新を起こす経営者男性
とか
年下の男性から憧れられる必要がある(社員の憧れの存在にならなきゃ行けない)美容関係のオーナー男性
とか、そういった方が多いですね。
着る側にも個性や存在感を求められるブランド、という感じです
メゾンブランドの採用という特徴
ちなみに去年、令和5年のM-1の時の衣装がこちら。
このときは日本のブランド、UNITED TOKYOのスーツを着用した、とあるファッション誌のインタビューで語っています。
さらにこのインタビューでは、
スーツだけど、ビジネススーツっぽくないものを選んでいます。僕は割と脚が細いので、細身のモードっぽいデザインのスーツを着ると、舞台衣装として見たときにちょうど良い不気味さが出る気がするんですよね。他にも、基本的にオーダーメイドではなく既製品のものを着るようにしていて、その中でちょっと変だなって違和感を覚えるかどうかも大事なポイントです。
今日の衣装だと肩にボリュームがあったり、裾にボタンがあったりするのが面白いと思うんですよね。ちょっと変わってるんだけど、変すぎない。お客さんに「なんか変なことを言いそうだな〜」って思わせるムードというか、ボケの人だって伝わる要素が欲しいんです。
令和ロマン・髙比良くるまに聞く! 舞台で“革靴とジャケット”をまとう理由|雑誌Begin(ビギン)公式サイト
とも語られています。
昨年から同じ方向性で、さらに価格帯をぐぐぐっと上げることで王者の風格も出したということなんでしょう。
芸人さんは、くるまさんと同じように「ちょっと違和感のある見た目にしたい」と変わったスーツを求める人は多いのですが、そのほとんどはテーラーでスーツをオーダーする、という方法を取っているように思います。そしてスーツの違和感も、赤やグリーンなどの変わった鮮やかな色を選んだり、総柄にしたりと色柄で表現するケースがほとんど。
UNITED TOKYOのようなモード系ブランドや、SAINT LAURENTのようなメゾンブランドの衣装の「デザイン性」の力を借りて表現する人は非常に珍しいと言えます。
蛙亭のイワクラさんが、GUCCIの幾何学柄ワンピースを衣装として採用していた記憶がありますが、それくらいしか思いつきませんね・・・
成功の決め手は、けむり氏のスーツとの絶妙なコントラスト
しかし、くるまさんの衣装の妙味は、何より相方のけむりさんと並んだときに一番発揮されるのです。
けむりさんは今回、ブラウンのスーツにブルーのシャツという、オーセンティックなスーツスタイリングを採用。こちらはオーダーメイドでテーラーで仕立てられたもので、去年から大きく変わってはいないようです。
ブラウンというカラーを除けば、形状と素材は極めてトラディショナルで、オーソドックス。ビジネスシーンで着ていても何ら違和感のない、美しいスーツです。ラペルも一般的なノッチドラペルで、襟幅は太めではありますが、これは体型に合わせてのものですので、デザイン性として特に変わっているところはありません。
このスーツを着たけむりさんとくるまさんが真横に並ぶと、パズルのピースのように、見事にこんな感じで組み合わさるんですよね・・・!
くるまさんは肩幅が広くいかっていて、ウエストに向けて絞られるシルエット。それに対してけむりさんは比較的ナチュラルショルダーで胸板が厚い丸みのあるシルエット。この対比が、くるまさんのスーツの「違和感」を最大限に引き出している、というわけなんです。
こんな風に、令和ロマンの衣装選びには、細部に至るまで緻密な戦略が感じられます。単なるスーツ選びではなく、キャラクター性や立ち位置まで考慮した見事なスタイリングと言えるでしょう。
私は常々、「洋服だけで印象を大きく変えたり作ったりするのはとても難しい」とお客様にお伝えしています。見た目でのイメージコントロールは、その人の中に元々あるものを大きく強調しようとするときに、その効果が最大限に発揮されるもの。ですから、他のどの芸人さんがSAINT LAURENTの同じスーツを着たところで、今回のような印象戦略の結果を生むわけではなかったでしょう。
くるまさんの言葉に非常に印象的なものがありました。
ネタは勉強すればある程度誰でも作れるけれど、それが自分の体に合うものかはわからないので、そこはセンス。
スタイリングもまさに同じで、知識があればある程度おしゃれな組合せはできるけれど、それが自分に合うかどうか、自分の良さが最も引き出されるものなのかというところが一番大事。
私のパーソナルスタイリングもまさに、そんな部分を大事にして作っています。