先日、経営者向け月刊誌「THE21」にて、服装が経営者の心理状態に与える影響についてお話しさせていただきました。その中で特に反響が大きかったのが、服のお手入れがもたらすメンタルケアの効果についてです。
記事の中では十分に掘り下げることができなかった「服のケアと心の関係」について、今回は服装心理学の専門家として、より詳しくお伝えしたいと思います。
最近は徐々にストレスケアに気を配る経営者の方々 が増えた印象です。 特にマインドフルネス(瞑想)は様々なアプリも出てきているため、取り組んでいる方が多いようです。しかし、私は服装心理学の研究実践を通じて、もう一つの効果的な方法があることを見出しました。それは「服のお手入れの時間」を持つこと。
実は、服のケアには通常の瞑想とは異なる、経営者特有のストレスに効果的な独自の価値があるんです。
経営者のメンタルヘルスと服のケアの深い関係
「マインドフルネスよりも、この15分の方が私には合っているみたいだね」
これは、私が長年パーソナルスタイリングを担当させて頂いている某上場企業の経営者からいただいた言葉です。
続けて、こう教えて下さいました。
「確かにマインドフルネスをやると心が落ち着く。でも、服のお手入れであれば心が落ち着くだけじゃなく、自信にまでつながっていくんだよね」
この言葉は、服装心理学の専門家として、多くの人へアドバイスしてきた実感とも一致します。服のケアの時間をしっかり取ることは、心を落ち着かせるマインドフルネス効果に加え、自分を大切にする実感がもたらす自己効力感の向上、そして見た目の改善による自信が獲得できるのです。
マインドフルネスが心の安定をもたらすのに対し、服のケアはより多面的な効果を実現できる。忙しい経営者の方々に喜んで頂けるのは「一石○鳥」だから、ということも大きいでしょう。
なぜ「服の手入れ」が経営者に効果的なのか
服のケアが経営者の心に特別な効果をもたらす理由。それは「目に見える成果があるので取り組みやすい」という点にあります。
マインドフルネスは効果を感じるまでに時間がかかり、「これでいいのかな?」と悩み、すぐにやめてしまったという声も残念ながらよく聞きます。しかし、服のケアには目に見える成果があります。
シワが伸び、生地が蘇る。
仮にマインドフルネスの域にまでまだ達せなくとも、少なくとも目の前の服はきれいになるのです。この具体的な改善を目にすることは、日々の経営判断に成果を求められる経営者の方々の性質ともとても相性が良いように感じます。
また、服のケアは「自分を大切にする」という行為の具現化でもあります。
ある女性経営者のお客様は、こう話してくれました。
「忙しさでつい自分を後回しにしがちですが、この時間だけは間違いなく自分へのための時間。それが心の安定につながっています」
さらに、これは単なる精神的な落ち着きにとどまりません。
服の手入れをすれば、実際に見た目が改善される。そのことが、確固たる自信を生み出します。「明日の大切な商談も、この服なら大丈夫」というしっかりした手応えが得られるのです。
心と自信を育てる「服の手入れ」3つの習慣
では、実際そんな経営者の皆さんはどんなことを行っているのでしょうか? 大切なのは、できるだけ毎日続けること。ですからできるだけ小さなステップから取り組むことをお薦めしています。具体的には、以下の3つです。
1. 帰宅時の「感謝と再生の30秒」
帰宅したらスーツにブラシをかけながら、その日の出来事を振り返ります。特に「達成したこと」にフォーカスするのがお薦めです。
人間、できなかったことは嫌でも心に残りがちですが、できたことはスルーしてしまいがち。しかし、できたことこそ、しっかりと反芻して心に刻むべきなのです。それが「自己効力感(自分はできる、と感じられること)」につながるからです。
「この30秒で、服も心も元気を取り戻せる」というのは、多くの経営者に共通する体験です。
2.アイロンがけの「創造の時間」
ずっとクリーニングを利用していて、アイロン掛けはしたことがない・・・・・・
そんな経営者の方も多いものですが、意外に取り組みはじめるとハマるものです。立ったまま手軽に蒸気でシワをとばせる「衣類スチーマー」を使うのももちろん良いのですが、ずっしりと重みのあるスチームアイロンのほうがしっかりシワを伸ばせる感覚が得られます。
アイロン掛けのような単純作業をやると、新しいアイデアが生まれて来やすいもの。この時間に助けられた、と話す経営者が少なくないのはそのためです。手を動かすことで脳が活性化され、通常のマインドフルネスではなかなか得られない創造的な時間となるのです。
3.週末15分の「整えの儀式」
一週間着た服をケアしながら、一週間を振り返る。これは単に思い出すだけでなく、服と共に自分を整える時間です。
週末にジムに行くなど体のメンテナンスをする習慣のある経営者は多いものですが、せっかく体が整っても、その中にある心や、その体を包む服がメンテナンスされていないようでは片手落ちです。なかなか普段手が回らない靴や革小物の手入れなどに絶好のタイミングです。ぜひ取り組んでみて下さい。
「この習慣を始めてから、月曜の朝が楽しみになった」という方も多いものです。
自分らしさを具現化する服選びがあってこその、ケアの効果
服のケアは大切ですが、それは自分らしい服選びができていることが前提です。「こうありたい自分」を具現化する服選びこそ、プロの力が必要な重要な領域。理想の自分をファッションで具現化するには、専門家の目を通した客観的な視点が必要だからです。
私のお客様は、日々の簡単なケアは自分で行い、「なりたい自分」を表現する服選びはプロに相談するというバランスで運用している方がほとんどです。服のケアを通じて自分と向き合い、プロの力を借りて理想の自分に近づく。この組み合わせが、最も効果的な自己投資と言えそうです。
毎日のケアを通じて自分と対話する時間を持ち、その上で「こうありたい」という思いをプロと共有する。そうすることで、服装は単なる外見の改善ではなく、本当の意味での自己実現のツールとなるのです。